SS

ハロウィンにちなんで、SSなど書いてみた。
長いので畳んでみた。
HPにもSSページを設置しました。随時追加予定。

万霊節

 それは、万霊節の夜の物語。
 自室でカレー研究に勤しむ俺の元に、珍しく沙紀がやってきた。
 しかも・・
「これならお兄ちゃんにも合うと思うんだけど・・どうかな?」
 二人分のプリンを持って。
 カラメルソースも小洒落たトッピングも乗っていない、プレーンなプリン(?)。
 心なし色が濃いのは何故だろう。菓子類の事はまるで分からない。
「むぅ、プリンか・・」
「うん。これなら食べられるかな・・って」
 正直、俺は甘い物がトラウマだ。
 砂糖や生クリームを見ただけで胸焼けがする程で、プリンも殆ど食べない。
 もちろん、沙紀もそれを分かっている。
 俺が食べられるような仕掛けをしているのだろうが、それでもやはり身構えてしまう。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「味見したのは美味しかったし・・多分」
 ・・聞き返した途端尻すぼみになるなよ。
 まぁ沙紀の事だ。出来に自信はあるが、甘味嫌いの俺に合う程かは分からない・・って所か。
 あまり気が進まないが、妹の好意をそうそう無下にする訳にはいかない。
 第一、この状況では今更断る事など出来ない。
(えぇい、ままよ・・!)
 プリンを掬い、おそるおそる一口。
 ・・思ったよりあっさりした甘さ。
 口の中に広がるが、決して不快ではない。むしろどこか懐かしい。
 そうだ・・これは野菜の味だ。
「・・かぼちゃか」
「うん、カボチャプリン。美味しい?」
「まだ一口目だぞ」
 急かす沙紀をスルーして、落ち着いた所でもう一口。
 滑らかな舌触りと野菜本来の優しい甘さ。丁寧に作られたのが見て取れる。
 ・・・・沙紀の奴、知らぬ間にこんなものを作れるようになってたのか。
「・・よく出来てる。本当に美味い」
「え?」
「だから、美味いよ」
「ほ、本当に?」
「俺は味には妥協しない質だ」
「そっか・・・・えへへへへ」
 ほっとした様子で胸を撫で下ろす沙紀。
 そんなに俺が美味いと言った事が嬉しかったのだろうか。
 このまま放置したらパーツが落ちるんじゃないか、と思うくらい顔が緩んでいた。
 
 
 お兄ちゃんが私のお菓子を食べてくれた。
 これはひょっとしなくても凄い事だ。
 前にチャレンジしたのが去年のバレンタインだから、ざっと1年半ぶり。
 ましてや「美味い」と言われたのなんて、いつ以来か思い出せないくらい。
「ふっふふ〜♪」
 階段を降りる足取りも水鳥のように軽やか。
 レールがあったら空も飛べそう、なんて思うくらい今の私は舞い上がっていた。
「・・・・あっ、そうだ」
 冷蔵庫で冷やしてあったもう一つのプリンを取り出す。
 お兄ちゃんに渡したプレーンなプリンとは少し違う、カラメルソースたっぷりのプリン。
 手にしていたスプーンで、ぱくり。
 かぼちゃのほっとする甘さと、カラメルソースのほろ苦さ。
 お兄ちゃん効果なのか、最初に試食したものよりずっと美味しい気がする。
「えへへへ・・・・」
 だって、私のプリンをこのスプーンで掬って、食べて「美味いよ」だなんて・・。
 思い出すだけでにやにやが納まらない。
「アレ・・・・?」
 何かは分からないけど、今とんでも無い事を言った気がする。
 私のプリン? ううん、違う。
 にやにやが納まらない・・のはさっきからずっとこうだし。
 まぁいっかとプリンをぱくり。
「そうだ、スプーン!! これってもしかして間接・・・・!!!?」
 
 そんな、舞い上がるあまりお星様になりそうな万霊節の夜のおはなし。